大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)298号 決定 1959年4月25日
抗告人 野原トシ(仮名)
理由
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一、抗告人野原トシの抗告理由について。
(1) 抗告人野原トシは、亡万吉は生前贈与をしておりその価額は贈与を受けた者の相続分の価額から控除するべきであると主張するので考えてみるに、原審記録(第一、二冊)によると、野原万吉は、昭和三〇年九月七日死亡し、その妻抗告人野原トシ、弟抗告人野原吉郎、妹抗告人野原フミ、母きよのみの養子抗告人野原善郎(フミの夫)、妹石川かめ、弟亡野原鶴吉の子で代襲相続人である野原昌子が共同相続をし、亡万吉死亡による相続開始の時における遺産(積極資産)は原審判添付第一から第五物件表まで記載のとおりであることが認められる。不動産登記簿抄本、謄本(原審記録第二冊一五一丁、二四七丁から二五九丁まで、三九八丁から四〇〇丁まで、当審記録中昭和三三年一一月二一日抗告人野原トシ提出にかかるもの)、不動産登記済証書(原審記録第二冊五〇八丁から五二〇丁まで)及びそれが亡万吉の手中にあつたこと、昭和一〇年九月六日付内務省○○土木出張所名義の野原鶴吉あての書面(同第二冊四九八丁)、昭和一一年一月三一日付同出張所名義の野原昌子後見人野原鶴吉あての書面(同第二冊四九九丁)、供出財産評価決定通知書(同第二冊五〇〇丁)、火災保険契約証書(同第二冊五〇一丁から五〇六丁まで)、火災保険契約継続証と題する書面(同第二冊五〇七丁)、原審家庭裁判所調査官平井和通の調査報告(同第二冊第三二六丁から三三一丁まで)、原審証人野原和夫の証言(一部)、原審における抗告人野原トシ本人第二回審問の結果(一部)を総合すると、亡万吉は、昭和一五年一〇月一六日他より大阪市○○区(当時○区。以下同じ。)○○町○丁目○四番地宅地三一坪六合六勺、同所一五番地宅地一六坪七合一勺、同所九五番地の二宅地三九坪七合三勺、同所九六番地の二田一〇歩を買い受けて同日売主より直接抗告人野原善郎名義に所有権移転登記を経由し、昭和一八年一月二九日他より、大阪市○○区○○○○丁目七番地宅地七四七坪(当時田二反四畝二七歩)を買い受けて同日これを自己、抗告人野原昌子及び野原吉郎三名の共有名義に所有権移転登記を経由し、昭和一八年三月一五日他より大阪市○○区○○○○丁目七番地上家屋番号同町第一、二二六番の二木造瓦ぶき二階建住家一棟建坪三八坪四合ほか二階坪三五坪二合、家屋番号同町第一、二二六番の三木造瓦ぶき二階建住家一棟建坪三八坪四合ほか二階坪三五坪二合、家屋番号一、二二六番の九木造瓦ぶき平家建住家一棟建坪三二坪、家屋番号同町第一、二二六番の一〇木造瓦ぶき平家建住家一棟建坪二九坪六合、家屋番号同町第一、二二六番の一一木造瓦ぶき平家建住家一棟建坪二四坪九合二勺を買い受けて同月一七日売主より直接抗告人野原吉郎名義に所有権移転登記を経由し、昭和二七年四月一一日抗告人野原フミに対し自己所有の大阪市○○区○○○○町三〇八番地の三宅地二八坪、同地上家屋番号同所第二五四番第一号木造亜鉛鋼板ぶき平家建車庫一棟建坪一〇坪三合三勺、同付属第二号木造亜鉛鋼板ぶき平家建居宅一棟建坪八坪二合につき同月一〇日付贈与による所有権移転登記を経由していること、亡万吉は前示不動産について抗告人野原トシに対し自分が死亡したときはこれを前示登記簿上の所有名義人らに贈与する旨述べていたこと、前示家屋については、亡万吉が火災保険契約を締結し、かつこれを他人に賃貸してその家賃を自己の所得としていたことが認められ、この事実と抗告人野原トシが亡万吉の死亡後の昭和三〇年一一月分以後の前示家屋の家賃は前示名義人らに取得させている旨自認していること(同第二冊四九五丁裏)によつて推認されるその事実を合わせ考えると、亡万吉は生前前示不動産を前示名義人らに贈与したものであつてその引渡を死後にすることとしたものと認めるのが相当である。しかしながら亡万吉が前示名義人らの生計の資本とするためその他民法九〇三条一項所定の目的で前示不動産を贈与したことを認めうる資料はない。かえつて前記認定のように亡万吉は贈与した家屋の家賃をその賃借人から受け取つていた事実によると、亡万吉はこれを前記名義人の生計の資本等にするため贈与したものではないことが推認される。そうすると、その贈与の価額を前示名義人の相続分の中から控除すべきではない。抗告人野原トシの右主張は採用できない。
(2) 抗告人野原トシは、本件相続財産中の浚渫船○○丸の価額認定につき、原審判に誤りがあると主張するので考えてみるに、商業登記簿抄本(原審記録第一冊一八丁)、抗告人野原トシ本人の原審における第一回審問の結果、原審鑑定人山口良市の鑑定の結果によると、本件遺産中の浚渫船○○丸は、かねてより亡万吉が代表取締役をしていた野原○業株式会社がこれを使用しているところ、右浚渫船の昭和三三年七月六日現在の価額は三、四三〇、〇〇〇円であるが、これより先万吉の死後昭和三二年五月その改造が完成し、改造費二、九九五、〇〇〇円が支出されていることが認められる。抗告人ら共同相続人がその改造費を支出したことを認めうる証拠はないから、特別の事情のないかぎり右浚渫船を使用している野原○業株式会社が右改造費を支出したものと推認せられる。相続財産の管理の費用はその相続分に応じて共同相続人が負担すべきものである(民法二五三条参照)から、抗告人ら共同相続人は野原○業株式会社が抗告人ら共同相続人に対する右改造費償還請求権を放棄等しないかぎり、その相続分に応じて右償還義務を負担しているものというべきである。しかし遺産分割の直接の対象は積極財産にかぎられるものであり、しかも右義務は相続分に応ずるものであるから、本件遺産分割に際しては前示償還義務二、九九五、〇〇〇円があるとしてもこれを考慮すべきではない。それゆえ原審が原審鑑定人山口良市の鑑定の結果によつて右浚渫船の価額を三、四三〇、〇〇〇円と認定したのは相当である。抗告人野原トシの右主張は採るをえない。
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(裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 岡野幸之助 裁判官 山内敏彦)